そのさん。
「………マスター」
「うん?どうしたの?」
マスターは、私のほうを向かず、返事をします。
………いつもの光景です。
「一応、書きましたよ」
「え、もう書いたの!?」
「まだ途中ですが、一通りは」
「いや、それでも十分早………ね、見ていい?」
「え?………だ、駄目に決まってるじゃないですか!」
「あ、やっぱり?」
「分かってるなら訊かないで下さい!」
「いやぁ………そう言う顔が見てみたくて」
「からかうのは嫌です、っていつも言ってますよね!?」
「うん、いつも言われてる」
「だったら止めてください!」
「いや♪楽しいもん」
「っ………」
くすくす、と笑うマスターには、言葉もありません。
「………マスター」
「なに?」
お返し、とばかりに、私はこの話題を取り上げることにしました。
「あのとき、マスターがきちんとカメラをつけていれば、私はマスターとは、呼びませんでしたよね」
「あ―――そうかもしれない、ね」
「かもしれない、じゃなくてそうですよっ!そうでなければ誰が『マスター』なんていかがわしい呼び方認めますかっ!」
「………いかがわしい、ってのはちょっと違うと思うけど」
「マスターが『これ』なんて言うからっ!私は勘違いしてっ………!」
「…………」
マスターが沈黙します。
………これは、勝ちました?
言い負かしたのは久々で―――
「あ………。そうなんだ」
マスターはくるっ、と椅子を回転させて、私の方に向き直りました。
「じゃぁ椎雫は、『これ』なんて呼ぶのは駄目だろうから、『マスター』って呼んでたんだ」
「そうですっ!そうでなければ言いま――」
「ありがと」
「せん―――って、は、はい?」
にこ、とマスターが私に笑いかけます。
「やっぱり優しかったんだね、椎雫」
「あ、当たり前のことですよ!誰が『これ』なんて呼びますかっ!」
「そうかもしれないけど、でも」
あーもうっ!
調子が狂ってしまうではないですか!
「じゃぁ、他の呼び方にする?」
「っ………?」
「僕は、どう呼んでくれてもいいよ?」
挙句に追い討ちをかけてきました。
…………。
その呼び名が、嫌いなわけじゃないんです。ただ、少し恥ずかしいだけで。
それが、マスターにばれたような気がして、私は慌てました。
「もういいですっ!これで定着しちゃいましたから!」
「………いかがわしいんじゃ、なかった?」
あーもうっ!!
これはわざとですか!?
わざとなら怒っていいですがこれはどうもマスターの素みたいですよっ!?
どうしたらいいでしょう………。
今更呼び名を変えるのも、嫌―――いえ、面倒です。
「今更変えても、面倒なんですっ」
「…………そっか」
沈黙が流れます。
私はマスターに背を向けて、火照った頬を隠すので精一杯です。
沈黙を破ったのは、マスターでした。
「くす………あははははっ!」
「………ま、マスター?」
「だ、だって椎雫があまりにもかわいあはははははっ!」
………かわい?
―――――っ!!
「マスターっ!!」
「ご、ごめんちょっとからかっただけあははは痛っ!痛いいたい!ごめん、ごめんってばはははは!」
「いい加減にしてくださーいっ!」
…………。
マスターは最低です。
あははw
いつもと立場が逆転してるw

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